悪霊怪談 呪われた美女たち
監督:鶴田法男
脚本:小中千昭
出演:吉野美佳、望月留美、堤まり、 夏川みすず、水上竜士
ストーリー
偶然知り合い、それぞれの心霊体験を語り始めた4人の女性。やがて、全員が同じアクセサリーを身に付けていることに気付く…。
レビュー
Jホラーにおける心霊表現の嚆矢となったのは一体どの作品なのだろうか。よく挙げられる作品として、中田秀夫の「女優霊」や、石井てるよし+小中千昭の「邪願霊」、鶴田法男による「ほんとにあった怖い話」の「夏の体育館」「霊のうごめく家」などがその筆頭であるが、この手の議論で無視され続けているのが本作「悪霊怪談」である。監督は「ほんとにあった怖い話」を手掛けた鶴田法男で、脚本は小中千昭。主演を務めるのは90年代に人気を博したギリギリガールズであり、96年に販売されたVHSのタイトルも「ギリギリガールズ イン 超・恐怖体験」といった感じで、アイドルの主演を全面に押し出したものとなっている。全5話のオムニバスホラーであるが、セクシーアイドルのギリギリガールズ目当てでレンタルしたスケベなファンの期待に応えるためのパンチラ、胸モロ出しといった不自然なサービスショットも至るところに用意されている。
こう書くと、いかにもJホラー史に埋もれてしまいそうな低クオリティのアイドルホラー映画を想像してしまいがちであるが、実際のところ全5話中の4話はアイドルの演技力の酷さもあって、そのものずばり低クオリティなアイドルホラーの域を出ない作品である。しかし、夏川みすずが主演を務めた「心霊ビデオ」だけは今の時代に見てもギョッとさせられるほどに怖い。具体的なストーリーは、夏川みすずがギリギリガールズに入る前にアルバイトをしていたビデオ製作会社での恐怖体験を回想形式で語るという構成になっており、彼女は編集中のビデオに何やら赤い服の女が見切れているのを発見する。おまけに、その赤い服の女は再生を繰り返す度にこちらへと近付いてきているではないか。最終的に女はモニターから現実世界へと抜け出し、超絶におっかない素顔を晒してオシマイという、完全に「リング」のクライマックスを先取りした内容となっているのだ。
「リング」の「テレビから貞子が出てくる」というクライマックスは鈴木光司の原作には存在しない、脚本家の高橋洋による完全オリジナルな展開であるが、鶴田作品のファンを公言している高橋洋が本作を参考にしたであろうことは想像に難くない。赤い服の女の正体や目的さえも最後まで明かされず、完全に投げっぱなし状態でエピソードが終わるのも絶妙な後味の悪さを感じさせる。なお、本作は2005年に「悪霊怪談 呪われた美女たち 最恐版」の題でDVD化もされている。販売会社も貞子を先取りした「心霊ビデオ」が一番の目玉商品だと確信していたのか、ジャケットの表と裏にテレビモニターからロン毛の女幽霊が這い出るイメージイラストを大胆に使用したものの、それが却って「リング」の便乗作品にしか見えないという皮肉を生んでいた。 |