予兆
散歩する侵略者
劇場版

監督:黒沢清

脚本:黒沢清、高橋洋

出演:夏帆、染谷将太、東出昌大、
中村映里子、岸井ゆきの、安井順平

ストーリー

 山際悦子は、同僚の浅川みゆきから、「家に幽霊がいる」と告白される。みゆきの自宅に行くとそこには実の父親がいるだけだった。みゆきの精神状態を心配した悦子は、夫・辰雄の勤める病院の心療内科へみゆきを連れていく。診察の結果、みゆきは「家族」という《概念》が欠落していることが分かる。 帰宅した悦子は、辰雄に病院で紹介された新任の外科医・真壁司郎に違和感を抱いたことを話すが、辰雄からは素っ気ない返事のみ。常に真壁と行動をともにする辰雄が精神的に追い詰められていく様子に、悦子は得体の知れない不安を抱くようになる。ある日、悦子は病院で辰雄と一緒にいた真壁から「地球を侵略しに来た」と告げられる。冗談とも本気ともつかない告白に、悦子は自分の身の周りで次々に起こる異変に、真壁が関与しているのではないかと疑い始める。

レビュー

 前川知大が主宰を務める劇団イキウメの舞台劇「散歩する侵略者」を黒沢清が映画化し、本編同様に黒沢清が手掛けたスピンオフドラマをWOWOWで放送更にそのスピンオフドラマ全5話を劇場映画用に編集したものが本作「予兆 散歩する侵略者」なのだが、どうしてそんなややこしいものを当サイトで取り上げるのかというと、本編がコメディ色の強い作品だったのに対し、スピンオフの本作は脚本に「女優霊」や「リング」の高橋洋が関わっていることもあり、宇宙人の侵略をテーマにしたSFパニックというジャンルをJホラーテイストで描いた傑作だからである。黒沢映画特有の画面から滲み出るような不穏さも本作ではビンビンに感じられ、必要最低限の登場人物のみで進行していく物語は140分という長さを感じさせないほどの緊張感を生み出すことに成功している。

 本編のスピンオフという扱いであるが、実際のところストーリー上の関連性は皆無と言ってもよく、「概念を奪う宇宙人の侵略」という同じテーマを扱った全くの別作品といっても良い。縫製工場で働くヒロインの夏帆は同僚の女の子から「家に幽霊がいる」という相談を受ける。しかし、同僚の家に行ってみるとそこには父親しかいない。ところが、同僚はその父親を見るなり酷く怯え、悲鳴まで上げる始末。「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です!というのは同監督の「クリーピー 偽りの隣人」であるが、事態はもっと深刻である。どうやら同僚には「家族」という概念がすっぽりと抜け落ちており、今まで一緒に暮らしていた父親が何者であるかも分からなくなってしまったのだ。

 こういった不可解な記憶障害が世界中で起こっているということを知ったヒロインは、得体の知れない侵略者が人々から概念を奪っているということ、そして、その魔の手は自分の旦那にも迫っているということを知る…というのが簡単なストーリーであるが、無感情な侵略者を演じる東出昌大の恐ろしさがとにかく際立つ。人々から概念を奪うくだりや、力を増した東出が歩くだけで周囲の人間を次々と薙ぎ倒していく場面などは、普通のSF映画ならば特殊効果を使って大袈裟に演出しそうなものであるが、そういったCGなどは一切使わずに、ここまで不気味な存在感を出せているのは、ひとえに役者による演技力の成せる業であろう。東出だけではなく、彼のガイドを務める羽目になった染谷将太や、実は宇宙人に対抗できる能力を秘めたヒロインの夏帆といった役者陣の個性が気持ちの良いくらい世界観に合致しており、この配役は本当に見事である。ハッピーエンドで終わった本編とは正反対に、世界の終末を予感させる結末を迎えるのも「回路」を愛する者としては最高の幕引きであった。

 

東出のサイコパスっぷりがメッチャ怖い

 

 世界の終わりを予感させる最高にイカした結末

 

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