スティーブン・キング
シャイニング

監督:ミック・ギャリス

脚本:スティーブン・キング

出演:レベッカ・デモーネイ、スティーブン・ウェバー、
コートランド・ミード、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ

ストーリー

 コロラドの雪深い山中にそびえたつ豪華なホテル。冬の間は陸の孤島となるこの地に、管理人としてやってきたトランス一家。過去に管理人が一家を惨殺するという事件があったこの地に、一歩足を踏み入れた瞬間から、何かが少しずつ狂い始めた…。

レビュー

 有名な話であるが、スティーブン・キングの「シャイニング」の映像化作品は2本存在している。そのひとつが、1980年公開の巨匠スタンリー・キューブリックによる同名作であり、大半の人が「シャイニング」と聞けば水色のワンピースを着た双子が出るキューブリック版を連想することだろう。計算し尽くされたシャープな恐怖演出や、名優ジャック・ニコルソンの怪演が大きく評価され、キューブリック版はホラー映画史に残る傑作となったが、原作者のスティーブン・キングはこれをクソミソに貶した。曰く、「あの映画は見かけ倒し。エンジンの積んでいないキャデラックのよう」だの、「父親役がジャック・ニコルソンだと最初から狂ってるように見えるじゃないか」だの、とにかくキューブリックに親でも殺されたかのような勢いで厳しい批判を繰り返した。そもそも、両者には死後の認識について大きな相違があった。「シャイニング」を要約すると、ホテルで小説を執筆していたお父さんが幽霊のせいでキチガイになってしまう話であるが、困ったことにキューブリックは死後の世界を信じていない現実主義者である。その思想は脚本にも大きく反映され、父親は幽霊の存在とは無関係に、禁酒のストレスと執筆のスランプで勝手に頭がおかしくなったようにしか見えないのである。家族愛が幽霊に打ち勝つ原作の感動的な結末さえもキューブリックは変更し、父親は最後まで息子を殺そうとするが、息子の策略によって敢えなく凍死する。これにもキングは怒った。何故なら、アル中でスランプ気味の作家である「シャイニング」の父親は、キング自身を投影したキャラだったからだ。
 
 1990年。煮えたぎる怒りを抑えきれないキングは、とうとう自分の思い通りに「シャイニング」を作り直した。前置きが長くなったが、それが今回紹介する作品である。長編である原作を余すことなく映像化するには2時間枠では無理ゲー過ぎるので、今度はTVシリーズとしての映像化である。「シャイニング」ドラマ化の権利はキューブリックが保有していたが、キューブリックは「譲っても良いけど、今後一切俺の作った映画版の悪口は言うんじゃねえぞとキングに権利を譲渡した。製作総指揮と脚本はキング自身が手掛け、監督は「スリープ・ウォーカーズ」や「ザ・スタンド」でキングの信頼を得たミック・ギャリスが担当。キャストも一新し、最初から狂ってるようには決して見えない役者を揃え、完璧な布陣で勝負に挑んだが、作品の出来としては良くも悪くも原作通り。こんなことを言うとキングファンに殺されそうだが、原作も前半部分は相当に冗長であり、いつまでホテルの案内をしてるんだとイライラしたものだが、その辺りの退屈な展開も完璧に映像化している。

 また、これも原作通りではあるのだが、動物の形をした生け垣が襲い掛かってくる展開は文章で読むのと映像で見るのとでは大きな差があり、端的に言ってしまえば滑稽で怖くも何ともない。キューブリックはこの生け垣動物を「現在の視覚効果では映像化不可能」とし、不気味な迷路へとアレンジしたが、この変更は恐怖映画を作る上では極めて真っ当な判断であったといえる。浴室の腐乱死体が襲ってくるシーンひとつ取ってみても演出の差は歴然で、キューブリック版では生きている裸の女性を誘惑に負けて抱いてしまった直後、それが腐乱死体であることが鏡越しに分かるショッキングなものであったが、キング版では最初から腐ってる女がゾンビのように襲ってくるので、思わず「違う!そうじゃない!とダメ出ししたくなってしまう。残念ながら、恐怖映画としての勝敗は圧倒的にキューブリック版に軍配があがるだろう。

 しかし、当たり前といえばそれまでなのだが、時間をたっぷり割いて丁寧に描かれている人間ドラマは見応えがあり、キューブリック版ではあまりストーリーに活かせていなかった息子の特殊能力(シャイニング)についても大きく言及されているので、「シャイニング」の原作を知りたいけど文字を読むのが死ぬほど面倒臭いという人にとっては最高の作品であるといえる。なお、「映画版の悪口を言わない」という約束で本作を製作したキングであるが、1999年にキューブリックが急性心筋梗塞で亡くなった後は、公約破棄とばかりに再度キューブリック版の文句を言うようになった。2019年には「シャイニング2」として執筆した「ドクター・スリープ」を、ホラー界の新鋭マイク・フラナガン監督がキングの大嫌いなキューブリック版の続編として製作。一体どうなることかとハラハラしたが、フラナガンはキューブリック版のテイストを崩すことなく、更にはキューブリックが大胆にカットした原作ラストの展開も違和感なく物語上に取り入れ、キングとキューブリックの両方に気を使いまくった内容となっており、ジジイ同士の面倒臭い喧嘩に終止符を打つ形となった。 

 

「違う、そうじゃない!」と言いたくなるシーン

 

ちなみにキング本人もノリノリで出演してます

 

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