恐怖

監督:高橋洋

脚本:高橋洋

出演:藤井美菜、中村ゆり、片平なぎさ、
日下部そう、斉藤陽一郎、吉野公佳

ストーリー

 脳科学者の大田夫妻は、脳の実験を記録した戦前の古いフィルムを見ていた。部屋に入って来た幼い姉妹、みゆきとかおりを母の悦子が叱ったとき、画面に写された白い光に一同は圧倒された。17年後、一家はそれぞれ別々に暮らしていた。研修医となった姉のみゆきは、死に取り憑かれ、集団自殺の会に参加する。妹のかおりは、行方不明となった姉を探しに上京するが…。

 

レビュー

 「感染」から始まったJホラーシアターの最終作にして、シリーズ史上最大の問題作といっても良い。とりあえず、女優霊」からのムーブメントである白い服を着た髪の長い女幽霊が出てくるような分かりやすいJホラーを期待していると呆気に取られることは確実だし、ジャンルでいったらホラーというよりはゴリゴリのカルト映画なので、友達同士で集まって何か怖い映画を見ようとしている状況で、何となくジャケットが怖そうだからという理由で本作をチョイスすると絶対に変な空気になるので注意が必要である。監督を勤めるのは「女優霊」や「リング」シリーズといった超ド直球のホラー作品から新生トイレの花子さん」のようなジュブナイルホラー、更には発狂する唇」「血を吸う宇宙」といった頭のおかしい作品まで幅広く脚本を手掛ける高橋洋であるが、自身がメガホンを撮った今回の「恐怖」こそが彼の作家性を最も色濃く反映している作品であることは間違いない。

 本作を見る限りでは、恐らく高橋洋は幽霊という存在にはさほど関心がなく、興味があるのは人間が観測することの出来ない未知の世界なのだろう。本作には、自殺志願の男女を拉致し、脳に電気信号を流すチップを植え付ける謎の組織が登場するが、それによって被験者は本来見ることの出来ないモノを見ることが可能になる。所詮、心霊現象なんてものは脳の信号による誤作動、錯覚に過ぎないと結論付けているようにも思えるが、この映画は更にその上を行き、何故か被験者は壁抜けが出来るようになったり、手術を受けていない筈の周囲の人間までもが悪夢を見るようになったり、部屋がグニョグニョになったり、処女なのに妊娠したりする。手術を受け、本来見ることの出来ない世界を観測できるようになった被験者は、人類の次の段階へとステップを進めた。そう、組織の目的は人間を霊的に進化させることだったのだ。ここまで来ると、もはやホラーというよりはSFの世界である。

 やや突飛なテーマを扱ってはいるものの、随所に妙に気色の悪い恐怖演出を入れてくるのがこの映画のニクいところであり、その代表ともいえるのが、組織の男が見る悪夢に登場する、車のルームミラー越しに映る無表情な自殺志願者の姿である。後部座席に座る男女が一直線にこちらを睨んでいるだけの他愛もない映像ではあるのだが、人の視線というものをここまでおぞましく撮れるのは高橋洋ぐらいなものだろう。また、処女懐胎した被験者の少女が出産を終え、廊下に現れる時のアングルの気持ち悪さも夢に出てきそうなくらいヤバイ。しかしその一方で、肝心の「あの世」の描写といえば、お世辞にも出来が良いとも言えないCGの霧がモヤァ〜と襲ってきたり、白い光がピカピカしているだけの表現で収まっているのが実に拍子抜けであり、そもそも人間が眼球で観測することのできない世界を映像で表現すること自体に大いなる矛盾を感じてしまう。とはいえ、人間の霊的進化を目論む劇中のマッドサイエンティスト同様に、Jホラーというジャンル自体を新たな進化へと導こうとしている高橋洋監督には、これからも挑戦的なホラーを沢山撮って頂きたいと願うばかりである。

 

視線恐怖症の方には耐え難い恐怖シーン

 

僅かに少女の顔が見える気持ちの悪いアングル

 

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